私は仕事を受けるとき、前金を50%いただいてから着手します。
これを言うと、たまに空気が固くなります。信用されていないのだろうか、と感じさせてしまうのだと思います。実際そう受け取られても仕方のない話です。
ただ、私が前金をいただく理由は、相手を疑っているからではありません。途中で立場が壊れないようにするためです。今回はその話を書きます。
全額後払いは、優しいようで危ない
全額後払いは一見すると相手に親切です。リスクを全部こちらが引き受けているように見える。
ただ、実際に起きることを考えてみてください。
作業が半分まで進んだところで、相手の状況が変わったとします。予算が削られた、担当者が代わった、優先度が下がった。悪意はありません。よくあることです。
このとき、まだ一円も受け取っていない側は、どうなるか。「ここまでの分をください」と言い出しにくくなります。 請求の根拠が弱いからです。結果として、黙って引き下がるか、関係を壊してでも請求するかの二択になる。どちらも良くない。
前金があると、この場面が変わります。少なくとも着手分は既に清算されている。残りをどうするかという冷静な話にできる。
「本当にやるのか」が決まる
もう一つ、前金には別の役割があります。
相談の段階では、だいたいみんな前向きです。話は盛り上がるし、やりましょうという空気になる。でも、そこから実際に着手までたどり着くかというと、そうでもありません。
前金の入金は、その事業にとって本当に優先度があるかどうかが表に出る瞬間です。
これは相手を試しているのではありません。私の側の話です。着手したのに相手の中で優先度が落ちていると、確認事項への返信が来なくなります。返信待ちで止まっている案件は、こちらのスケジュールも他のお客様の順番も押します。
前金をいただく形にしておくと、始まらない案件は静かに始まらないまま終わります。お互いにとってそのほうがいいと思っています。
半分にしている理由
全額前払いではなく50%にしているのは、リスクを片側に寄せないためです。
全額前払いだと、今度は相手が全部のリスクを負います。払ったのに納品されない可能性を、相手だけが抱えることになる。それでは前払いを求める理由が「こちらの都合」だけになってしまいます。
半分ずつなら、着手前に私が受け取るのは半分、残りは納品後。どちらも途中で投げ出しにくい形になります。
前金が効くのは、その前に決めてあることがある場合だけ
ここが一番大事なところです。
前金は、それ単体ではただの「先にお金をもらう約束」です。効くのは、何を納めるかが先に文章になっている場合だけです。
私の場合、契約書の別紙に納品物の一覧を書きます。これが終わったら完了、という定義を先に固める。そこに含まれないものは範囲外で、必要なら別途見積になる、とも書いておく。
この一覧があるから、前金に意味が出ます。「何に対して払ったのか」がはっきりしているから、残りの請求にも根拠がある。
逆に言うと、納品物の定義が曖昧なまま前金だけ取るのは、ただ有利な条件を押し付けているだけです。それは私がやりたいことではありません。
小さい取引ほど、順番が効く
20万円の仕事で裁判をする人はいません。弁護士費用のほうが高くつくからです。
つまり、小さな取引を守っているのは契約書の準拠法ではなく、お金の順番と範囲の明文化です。私が前金と納品物一覧にこだわるのは、そこが実際に効く場所だからです。
まとめ
前金をいただくのは、相手を信用していないからではありません。
- 途中で状況が変わったときに、冷静な話ができるようにするため
- 始まらない案件が、静かに始まらないようにするため
- リスクを片側に寄せないため
そして前提として、何を納めるかを先に文章にしておくこと。これがないと、前金はただの条件になってしまいます。
お金の話は後回しにしたくなります。でも、後回しにするほど、あとで言いにくくなる。先に決めておくほうが、結局は関係が長持ちすると思っています。
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